この試験が目指すもの
頸動脈狭窄症の外科的治療「頸動脈内膜剥離術(CEA:Carotid Endarterectomy)」は 脳卒中予防に非常に有効な手術ですが、手術中の一時的な脳虚血(頸動脈クランプ時)や 微小塞栓によって術後に認知機能低下・せん妄・脳梗塞が起きるリスクがあります。
神経保護ガスとして最も研究されてきたのは「ゼノン(Xe)」ですが、 非常に高コストであることが実用化の障壁になっています。 アルゴン(Ar)は空気中に約1%含まれる希ガスで、製造コストが低く、 動物実験では脳虚血・脊髄損傷に対してゼノンと同等の神経保護作用が示されています。 PAIRS試験はアルゴンの臨床神経保護効果を初めてフェーズ3で検証します。
基本情報
| 試験番号(NCT ID) | NCT07200180 |
|---|---|
| 試験名 | PAIRS(Protective Argon Inhalation after Recanalization Surgery) |
| フェーズ | フェーズ3(ランダム化・二重盲検・プラセボ対照) |
| 試験ステータス | 募集中(Recruiting) |
| 対象疾患 | 症候性または無症候性頸動脈狭窄(CEA適応例) |
| 対象患者 | 全身麻酔下の頸動脈内膜剥離術を予定している成人 |
| 介入内容 | アルゴン-酸素混合ガス(70% Ar + 30% O₂)吸入(術中・術後)vs. 通常麻酔管理 |
| 主催スポンサー | V.A. Negovsky Reanimatology Research Institute(ロシア・モスクワ) |
| 実施施設 | 1施設(ロシア) |
| 登録予定人数 | 100名 |
| 完了予定 | 2026年10月 |
評価指標
主要評価指標(Primary Outcome)
| 術後神経合併症複合エンドポイント | 術後48時間以内の(1)脳梗塞発症、(2)認知機能低下(MoCA/MMSE低下)、(3)術後せん妄のいずれかの発生 |
|---|
副次評価指標(Secondary Outcomes)
| MoCA・MMSEスコア変化 | 術前・術後24時間・1週間・1か月の認知機能スコア変化 |
|---|---|
| 脳神経バイオマーカー | NSE(神経特異性エノラーゼ)・S100Bタンパク質の変化 |
| DWI-MRI(拡散強調画像) | 術後72時間以内のMRIによる微小脳梗塞検出 |
| 入院期間・ICU滞在時間 | 術後回復指標 |
| 安全性 | 麻酔関連有害事象(低酸素・循環変動) |
アルゴンはなぜ神経を保護できるのか
① 希ガスの神経保護作用の発見
2004年頃から、ゼノン(Xe)・クリプトン(Kr)・アルゴン(Ar)などの希ガスが 低酸素・虚血状態の神経細胞を保護することが動物実験で発見されました。 アルゴンは空気の約1%を占める豊富な元素であり、ゼノンよりも100分の1以下のコストで供給できます。
② 作用メカニズム(仮説)
アルゴンの神経保護機序として以下が研究されています: (1)NMDA受容体の適度な阻害による興奮毒性(グルタミン酸過剰)の抑制、 (2)TREK-1(2P-カリウムチャネル)の活性化による神経膜安定化、 (3)アポトーシス(細胞死)シグナルであるBcl-2ファミリーの調節。 いずれも虚血時の神経細胞死を減らすメカニズムです。
③ 前臨床・フェーズ1/2の実績
ラット・ブタの脳虚血モデルでアルゴン吸入群は脳梗塞体積が40〜60%縮小しました。 心停止後の蘇生モデルでも神経学的回復の改善が確認されています。 Negovsky研究所によるフェーズ1/2試験では、心臓手術・脳手術後患者へのアルゴン投与の安全性が確認されました。
参加できる方・できない方
✅ 参加できる可能性がある方
- 頸動脈狭窄症(症候性または無症候性)でCEAが計画されている方
- 全身麻酔下での手術が可能な全身状態
- ロシア・モスクワのNegovsky研究所での手術が可能な方
✗ 参加できない主な条件
- 急性脳梗塞後2週間以内の方(緊急手術例)
- 重篤な心機能障害(EF < 30%)のある方
- 認知症・重篤な精神疾患のある方(認知機能評価が困難)
- 重篤な閉塞性肺疾患・呼吸不全のある方