CAR-T細胞療法は、患者さん自身の血液から取り出したT細胞(免疫細胞)を遺伝子改変し、がん細胞を狙い撃ちできる「生きた薬」として体内に戻す治療法です。2019年以降、日本でも複数の製品が承認され、これまで治療の選択肢が限られていた難治性血液がんの患者さんに新たな希望をもたらしています。
CAR-T細胞療法のしくみ
CAR-T(Chimeric Antigen Receptor T-cell)療法の流れを順番に見ていきましょう。
- アフェレーシス(採血・T細胞採取):患者さんの血液から白血球(T細胞)を集める。1〜2日かかる
- 遺伝子改変(製造):採取したT細胞にウイルスベクターを使ってCAR遺伝子を組み込む。製造に約3〜4週間
- 前処置化学療法:患者さんの体内の既存リンパ球を一部除去して、CAR-Tが定着しやすくする
- CAR-T投与(1回のみ):点滴で体内に戻す。1回の投与で終了
- 入院管理(数週間):CRSや神経毒性が起きる可能性があるため、専門施設で集中管理
日本で承認されている主なCAR-T製品
| 商品名 | 一般名 | 標的 | 対象疾患 |
|---|---|---|---|
| キムリア | チサゲンレクルユーセル | CD19 | ALL(25歳以下)・DLBCL |
| イエスカルタ | アキシカブタゲン シロルユーセル | CD19 | 大細胞型B細胞リンパ腫 |
| ブレヤンジ | リソカブタゲン マラルユーセル | CD19 | 再発・難治性B細胞リンパ腫 |
| アベクマ | イデカブタゲン ビクルユーセル | BCMA | 再発・難治性多発性骨髄腫 |
| カービクティ | シルタカブタゲン オートルユーセル | BCMA | 再発・難治性多発性骨髄腫 |
費用・保険適用・実際の自己負担
CAR-T細胞療法の薬価はキムリアで約3,300万円、イエスカルタで約3,200万円と非常に高額です。しかし、日本では保険適用となっており、高額療養費制度が適用されます。
高額療養費制度の月額上限は所得によって異なります。一般的な所得(年収370万〜770万円)の方では月約8〜18万円が上限です。複数月にわたれば「多数該当」でさらに軽減されます。加入している健保の「付加給付」があるとさらに低くなる場合もあります。
ただし薬剤費以外に、採取・製造期間中の入院費・前処置化学療法費・投与後の入院管理費が別途かかります。トータルの費用は施設・患者さんの状況によって異なります。
主な副作用とその管理
CAR-T細胞療法特有の重篤な副作用が2つあります。いずれも専門の認定施設でのみ投与・管理が行われます。
- CRS(サイトカイン放出症候群):高熱・低血圧・低酸素が投与後数日以内に起こる。トシリズマブ(アクテムラ)・ステロイドで管理。頻度は約50〜80%(多くは軽〜中等度)
- ICANS(免疫細胞関連神経毒性症候群):意識混濁・言語障害・けいれんなどが出ることがある。CRSの後に発症することが多い。ステロイドが有効
CAR-T細胞療法は専門の「認定医療機関」でのみ実施されます。自施設が認定されていない場合、担当医から認定施設への紹介が必要です。
固形がんへの治験と今後の展望
現在、CAR-T細胞療法は血液がんにのみ承認されていますが、固形がんへの適応拡大を目指す治験が世界中で急速に進んでいます。課題は固形がんの「免疫抑制性微小環境」を突破することです。
- 標的候補:メソテリン(中皮腫・卵巣がん)、EGFR(肺がん)、HER2(乳がん・胃がん)、GD2(神経芽腫)など
- 改良型CAR-T:「アーマードCAR-T」(免疫抑制に対抗する機能追加)、「同種CAR-T」(他人のT細胞を使い製造時間を短縮)などの開発が進む
- 日本の参加施設:国立がん研究センター・大学病院で固形がんCAR-T試験の準備・参加が始まっている
よくある質問(FAQ)
CAR-T細胞療法はどんな血液がんに使えますか?+
主に、大細胞型B細胞リンパ腫・急性リンパ芽球性白血病・濾胞性リンパ腫・多発性骨髄腫・マントル細胞リンパ腫などに使われます。いずれも再発・難治性の患者さんを主な対象とし、2回以上の前治療歴が必要なケースが多いです。
CAR-T療法の費用と保険適用について教えてください。+
キムリアの薬価は約3,300万円ですが、保険適用のため高額療養費制度が利用でき、多くの方の実際の自己負担は月数万〜数十万円に抑えられます。ただし入院費・前処置化学療法の費用は別途かかります。
CRS(サイトカイン放出症候群)とはどのような副作用ですか?+
CAR-T細胞が大量に活性化することで免疫物質(サイトカイン)が過剰に放出される状態です。高熱・低血圧・低酸素などが数日以内に起こります。重症化すると集中治療が必要になりますが、トシリズマブなどの治療薬で管理できるようになっており、専門病院での管理が前提です。
固形がんにはCAR-T細胞療法は使えないのですか?+
現時点で承認されているのは血液がんのみです。固形がんはがんの微小環境が免疫細胞を排除する仕組みを持つため難しいですが、固形がんへの適応を目指した治験が世界中で進行中であり、注目される領域の一つです。
CAR-T療法はどこの病院で受けられますか?+
厚生労働省が定めた「認定医療機関」のみで実施されます。主な施設は、国立がん研究センター中央病院・慶應義塾大学病院・東京大学病院・大阪大学病院・北海道大学病院などです。担当医から認定施設への紹介状を発行してもらってください。