この試験が目指すもの

アルツハイマー病患者の約40〜50%が、疾患の進行とともに幻覚(実際にないものが見える・聞こえる)や 妄想(迫害されているなどの根拠のない思い込み)を経験します。 これらの神経精神症状は介護者の負担を急増させ、施設入所を早める主要な原因にもなっています。

現在使用されている非定型抗精神病薬は副作用(過鎮静・転倒・脳卒中リスク増加)の問題があり、 高齢認知症患者への使用にはFDAも「ブラックボックス警告」を付しています。 この試験では、全く異なる経路を持つ「KarXT」がこの課題を解決できるかを検証します。

基本情報

試験番号(NCT ID)NCT06947941
試験名ADEPT-5
フェーズフェーズ3(ランダム化・二重盲検・プラセボ対照)
試験ステータス募集中(Recruiting)
対象疾患アルツハイマー病に伴う幻覚・妄想(Alzheimer's Disease Psychosis)
対象患者55歳以上、アルツハイマー型認知症と診断、幻覚または妄想症状あり
介入内容KarXT(xanomeline 125mg + trospium 30mg)1日2回 vs. プラセボ
主催スポンサーBristol-Myers Squibb(米国)
登録予定人数325名
試験期間12週間(投与)+ 安全性フォローアップ
日本実施施設大阪大学病院・高知大学医学部附属病院(開始準備中)

評価指標

主要評価指標(Primary Outcome)

NPI-NH 幻覚+妄想スコア変化量神経精神症状目録(Nursing Home版)の幻覚・妄想サブスコアのベースラインから12週時点の変化量
💡 NPI-NHは1〜144点スケールで、スコアが低いほど症状が改善していることを示します。幻覚・妄想の2項目に絞ることで、治療効果を精密に測定します。

副次評価指標(Secondary Outcomes)

CMAI-C(攻撃性・興奮)Cohen-Mansfield Agitation Inventory — Community版
ADCS-ADL(日常生活機能)介護者評価による日常生活機能の変化
NPI-NH 全項目スコア10症状全体の神経精神症状評価
安全性・忍容性有害事象、バイタルサイン、認知機能(MMSE)

KarXTとは何か — 作用機序の革新性

① ムスカリン受容体M1/M4という未開拓ターゲット

KarXTの主成分「xanomeline」は、脳内のムスカリン受容体M1とM4を選択的に活性化します。 M1受容体は認知機能・記憶に、M4受容体は幻覚・妄想の抑制に関わっていると考えられており、 ドーパミンD2受容体を遮断する従来の抗精神病薬とは根本的に異なるアプローチです。

② トロスピウムで末梢副作用を抑制

xanomeline単独では吐き気・嘔吐などの消化器系副作用(末梢ムスカリン受容体の刺激)が強いという問題がありました。 KarXTは「trospium(抗コリン薬・消化管/膀胱に限定して作用)」を組み合わせることで、 xanomeline の末梢での副作用を打ち消し、中枢作用だけを発揮させる巧妙な設計です。

③ 統合失調症(EMERGENT試験)での実績

KarXTは2024年9月にFDAが統合失調症治療薬として承認(商品名:Cobenfy)。 EMERGENT試験シリーズで陽性症状(幻覚・妄想)の有意な改善を示しており、 この実績をアルツハイマー病精神症状への展開に活かすのが本試験です。

BMSのアルツハイマー病パイプライン

試験薬剤フェーズ対象ステータス
ADEPT-5(本試験) KarXT Ph3 AD幻覚・妄想 🟢 募集中
ADEPT-3 KarXT Ph3 AD幻覚・妄想(短期) 🔵 実施中
EMERGENT-4 KarXT(Cobenfy) Ph3 統合失調症(長期安全性) 🟢 募集中

日本国内の実施施設

🏥
大阪大学医学部附属病院(精神科・神経科)
高知大学医学部附属病院(精神科)
※いずれも試験開始準備中。参加希望の場合は各施設の精神科・神経内科へお問い合わせください。

参加できる方・できない方

✅ 参加できる可能性がある方

  • 55歳以上
  • アルツハイマー型認知症の診断を受けている
  • 幻覚または妄想の症状がある(NPI幻覚/妄想スコア ≥ 4)
  • 介護施設入居中または在宅介護を受けている
  • 試験参加に同意できる(本人または代理人)

✗ 参加できない主な条件

  • 重度の心疾患・尿閉・緑内障がある方
  • 試験開始前4週間以内に抗精神病薬を使用した方
  • レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症の方
  • 活動性のうつ病で即時治療が必要な方

よくある質問

Q1. KarXTはすでに承認されている薬ですか?+
はい、米国では2024年9月に「Cobenfy」という商品名で統合失調症治療薬として承認されています。ただし、アルツハイマー病への適応はこの試験を通じて確認中であり、日本では未承認です。
Q2. 従来の抗精神病薬との違いは何ですか?+
従来薬(ハロペリドールなど)はドーパミンD2受容体を遮断しますが、高齢者では過鎮静・転倒・死亡リスク増加の問題があります。KarXTはドーパミン系に作用せず、ムスカリン受容体M1/M4という別経路を使うため、こうしたリスクが少ない可能性があります。
Q3. 試験参加中に認知症の進行は止まりますか?+
本試験はアルツハイマー病の進行自体を止めるものではなく、「幻覚・妄想症状の改善」を目的としています。認知機能の評価(MMSE)は安全性確認のために行われます。
⚠️ 本記事はClinicalTrials.gov(2026年5月4日取得)の公開情報をもとにした情報提供記事であり、医療アドバイスではありません。治療法の選択・臨床試験への参加については必ず専門の医師にご相談ください。

詳細情報: ClinicalTrials.gov — NCT06947941